縁起が良いとされる日本伝統の和柄を「吉祥文様(きっしょうもんよう)」と呼びます。着物、食器、浮世絵などさまざまな物に描かれてきた吉祥文様。お祝いや厄除けのお守りとして贈り物に選ばれることも多いですが、その種類は実に数十種類にも及びます。
普段何気なく目にしている柄の中にも、素敵な意味が込められたものがあるかもしれません。今回はそんな吉祥文様の中から、ギフトでも喜ばれる31個の模様の意味をご紹介します。
吉祥文様一覧
麻の葉文様
麻はとても成長が早く、生命力が強い植物。4ヶ月で4メートルにもなると言われていて、グングンまっすぐに伸びていくことから「健康」「成長」を意味する模様です。子どもの健やかな成長を願い、魔除けとして産着やお守りにもよく使われます。
唐草文様
縦横無尽に伸びる茎やツタが生命力の強さを連想させるので「長寿」「繁栄」を表します。泥棒の背負う風呂敷の柄というイメージが強いですが、明治時代では唐草模様の風呂敷はどこの家庭にもあるほどの大人気商品だったそうです。
市松文様
色の違う正方形を互いちがいに並べた模様で、現代で言うところのチェック柄です。同じ柄がどこまでも途切れることなく続く様子から「子孫繁栄」「事業拡大」の意味があります。
市松模様という名が付いたのは江戸時代、佐野市松という歌舞伎役者がこの柄の袴を身に着けていたためだそうです。それ以前は「石畳」または「霰(あられ)」という名で親しまれていました。
鱗(うろこ)文様
三角形を並べた模様で、魚や蛇の鱗に形が似ていることから鱗文様と呼ばれるようになりました。三角形を3つ合わせたものは特に「三つ鱗」と呼ばれ、北条家の家紋としても有名です。
もともと三角形には魔除けの力があるとされていたのに加え、鱗は身を守るためのものであることから鱗文様も魔除けとして使われます。また、脱皮を繰り返す蛇は生命力を象徴する生きものとされていたため「再生」の意味もあります。
亀甲文様
亀の甲羅をかたどった六角形の模様です。もともと亀が長寿を象徴する生きものなので、亀甲紋も「長寿」を意味します。他の模様と組み合わせたり、六角形のつなぎ方を変えたりしたアレンジが数多くあるのも特徴です。
六角形の中に花を描いた「亀甲花菱」、六角形の中にもうひとつ六角形を描いた「子持ち亀甲」、六角形を3つ合わせて三又に見えるようにした「毘沙門(びしゃもん)亀甲」などがあります。
扇文様
末広がりの形が古くから縁起のいいものとして扱われてきました。「末」とは未来、つまり現在より先のことを表しています。「これから先の時間がどんどん繁栄するように」という願いが込められており、結婚祝いや誕生日など、幅広いお祝いの席で用いられます。
青海波(せいがいは)文様
穏やかな波を描いた模様です。どこまでも続く波模様には「未来永劫穏やかに暮らしていけるように」という願いが込められています。結婚祝いにもおすすめの文様です。
流水文様
水が流れる様子を線で描いた模様です。他の模様と組み合わせて使う装飾として使われることも多いですが、流水文様そのものにも「厄を流す=魔除け」「流れる水は腐らない=清らかさ」「火難除け」などの意味があります。流水文様の中でも、水流と渦をかたどった「観世水(かんぜすい)」は特に有名です。
紗綾形(さやがた)文様
「卍(まんじ)」という漢字をナナメに崩してつなげた模様です。卍が変化してできたのが「万」だという説もあります。大きな数を表す模様がどこまでもつながる様子から、家の繁栄や長寿が長く続くことを願う「不断長久(ふだんちょうきゅう)」の意味が込められています。
工字繋ぎ(こうじつなぎ)文様
紗綾形によく似ていますが、こちらは「工」の字をつなげた模様です。「不断長久」に加え「延命」「長寿」の意味もあります。
矢絣(やがすり)文様
矢羽の形をかたどった模様です。絣(かすり)とは模様の輪郭がかすれて見える織物の技法を指しますが、やがて織物以外の矢羽模様も矢絣と呼ぶようになりました。
「的を射る」「まっすぐ進む」ことから、縁起物として使われます。射た矢は戻ってこないことから、江戸時代には「出戻らないように」と嫁入り道具に矢絣の着物を持たせたそうです。
七宝文様
同じ大きさの円または楕円を1/4ずつ重ねた模様で「輪違いつなぎ」「曲輪(くるわ)つなぎ」とも呼ばれます。「七宝」は仏教用語で、金・銀・水晶・珊瑚・瑠璃(るり)・瑪瑙(めのう)・硨磲(しゃこ)の7つの宝のことです。
多くの輪がつながって四方に広がる様子から、江戸時代の頃に「四方」→「しほう」→「しっぽう」となまって「七宝」の字が当てられるようになったと言われています。「円満」「調和」など人間関係の豊かさを願う意味があり、結婚や引っ越しなどでよく用いられる模様です。
束ね熨斗(たばねのし)文様
細長く帯状にした複数の熨斗(のし)を束ねた模様です。現在では紙に印刷した熨斗が一般的ですが、もともとは「熨斗鮑(のしあわび)」と言い、鮑を薄く削いで伸ばしたものを乾燥させて贈り物に添えていました。
贈り物の華やかさや高級感を表す熨斗を複数束ねた様子から「多くの人から祝福されていること」「人と人とのつながりや絆」を表します。また、熨斗の長さは「長寿」の象徴とも言われており、お祝い事の式服やお宮参りの着物にもよく使われるおめでたい模様です。
立涌(たてわく・たちわき)文様
2本の曲線で蒸気が立ち上る様子を描いています。平安時代以降、公家階級の装束や調度に用いられていた「有職文様(ゆうそくもんよう)」という格式高い模様です。膨らみの部分に描く模様により「雲立涌」「波立涌」「菊立涌」「藤立涌」など多くの種類があります。
雪輪(ゆきわ)・雪華(せっか)文様
雪の結晶をモチーフにした模様です。たくさん雪が降った年は作物が豊かに実ることから雪は五穀の精と言われており、雪輪文様は「豊作」の象徴とされました。顕微鏡で観察して雪の結晶が六角形だとわかったのは江戸時代のことですが、雪輪文様は平安時代から使われていたそうです。
松文様
一年中緑の葉を落とさず、他の木は生きられないような過酷な環境でも力強く育つことから「長寿」「威厳」「不老不死」などの意味があります。新芽が出ている若い松を描いたものは「若松」、樹齢を重ね立派に枝葉を伸ばしたものを「老松」と呼びます。
竹・笹文様
竹の茎や茂る葉を描いた模様です。まっすぐに勢いよく伸びる姿と、鳳凰(ほうおう)がその実を食べるという中国の故事から、古来より吉祥の象徴とされてきました。
冬も枯れないことから「不老不死」「長寿」「力強さ」などを表し、茎の中が空洞であることから裏表のない「潔白さ」の意味もあります。次々と新芽を出して数を増やすことから「子孫繁栄」の象徴でもあります。
吉祥文様としての竹と笹に明確な区別はないと言われていますが、丈が低く茎が細く描かれるものを笹文様とすることが多いようです。
梅文様
「学問に励むと梅が咲く」という中国の故事から、貴族に好まれた花です。特に菅原道真が梅を愛したと言われていて、天神信仰の普及に伴い庶民にも梅人気が広まりました。梅の「毎」は母親を表す文字ですが、厳しい寒さの中でもきれいな花を咲かせる様子は母親の力強い姿に重なります。
松・竹・梅を合わせた「松竹梅」は商品やサービスの格付けとして使われていますが、もともとは寒さの厳しい真冬でも力強く葉や花をつける植物の組み合わせ「歳寒三友(さいかんさんゆう)」として尊ばれていました。
菊文様
菊は奈良時代に中国から薬草として伝わりました。現代でも重陽の節句(9月9日)に不老不死を願って菊酒を飲む習慣が残っています。「不老不死」「延命長寿」「無病息災」など健康面の願いが多く込められた模様です。放射状に整った花弁を太陽に見立て、邪気を払う力があるとされています。
四君子(しくんし)文様
竹・梅・菊・蘭の4つを合わせたものを「四君子(しくんし)」と言います。君子とは、古来中国で学識高く人徳があり、清らかで高潔な人のことを指す言葉です。竹・梅・菊・蘭はそれぞれ君子の特性を持つとされていて、日本でも吉祥文様として扱われています。蘭は控えめながらいい香りの花を咲かせるため「善人蘭の如し」王者の香りありと言われ尊ばれました。
桜文様
寒い冬を超え、春の訪れを告げる花であることから「物事のはじまり」を意味する模様です。また、かつて花見は五穀豊穣を願うための行事だったことから「豊かさ」を、一斉にたくさんの花を咲かせることから「繁栄」を表します。花びらを散りばめた「小桜」、垂れ下がる枝と花を描いた「枝垂桜」、流れる水と組み合わせた「花筏(はないかだ)」などがあります。
牡丹(ぼたん)文様
奈良時代に薬草として伝わった後、装束や工芸品を装飾する文様として使われました。「丹」の字は不老不死の仙薬を表すことから「不老不死」「不老長寿」の意味があります。また、その見た目の華やかさから「豪華さ」「富貴」「権力」の象徴ともされ、武家の家紋にもよく使われました。
宝尽くし文様
室町時代から吉祥文様として用いられている模様です。「開運招福」「富貴繁栄」などの意味があります。宝尽くしはいろいろな宝物を集めた模様で、打ち出の小槌・隠れ蓑・如意宝珠(にょいほうじゅ)・丁字・分銅・巻物などがあり、それぞれが縁起のいい意味を持っています。
菱(ひし)文様
模様そのもののルーツは古く、縄文時代の土器にも使われていました。水草のヒシが付ける葉や実の形に似ていることから名がついたと言われています。ヒシは繁殖力が高く、実の栄養価が高いことから「無病息災」の意味が込められています。
籠目(かごめ)文様
格子状に編まれた竹籠の目を表す模様です。網目が「六芒星(ろくぼうせい)」の形に見えることから、魔除けの力があるとされています。物の怪や邪気を払うため、古くは玄関先に竹籠を魔除けとして置いていたそうです。
宝相華(ほうそうげ)文様
5つの花びらを持つ空想の植物を描いた模様で、日本では奈良~平安時代に装飾文様として流行しました。牡丹・石楠花(しゃくなげ)・芍薬(しゃくやく)・ザクロ・芙蓉(ふよう)などをモチーフにしたと言われており、鳥などの動物と組み合わせて描かれることもあります。
空想の植物なので花言葉や効用などはありませんが、正倉院の宝物にも描かれていることから格式高い文様とされています。
鹿の子(かのこ)文様
子鹿の背中の模様に似ていることから名付けられました。「生地を少しだけつまんで糸で縛り、染料につけて糸をほどく」という大変手間のかかる技法で作られるため、贅沢品とされています。かわいらしさと高級感をあわせ持つ模様であることから、子ども用の着物などによく用いられます。
鮫小紋
細かい点を円状に重ねた様子が鮫の肌に似ていることから鮫小紋と呼ばれるようになりました。8代将軍の徳川吉宗の生家である紀州徳川家が好んで用いたと言われています。
江戸小紋の中でも藩が定めた「定め小紋」は格式が高いとされますが、その中でも鮫・角通し・行儀の3つは特に「小紋三役」と呼ばれます。硬い鮫肌を鎧に見立て「魔除け」の意味があるとされます。
朝顔文様
朝顔は平安時代に薬用として伝わりました。季節感がはっきりしている花なので、夏の着物や浴衣によく用いられます。
朝に咲いて昼にはしぼんでしまうことから「はかない恋」という花言葉を持つ朝顔ですが、しっかりとツルを伸ばして育つことから「固い絆」という意味があります。また、「太陽の力を受け運気を蓄えて咲く」として縁起のいい花と言われています。
橘(たちばな)文様
橘は「柑子(こうじ)」や「蜜柑(みかん)」など柑橘系の古名とされています。古事記や日本書紀に書かれた「常世の国(不老不死の理想郷)」に生えているとされたことから「長寿」「不老不死」の意味があります。
一年中葉が茂る常緑低木であることと、子宝に恵まれるとされたことから「永遠」「子孫繁栄」の意味も込められています。中国から伝わってきた文様が多い中、橘は数少ない日本生まれの吉祥文様です。
瓢箪(ひょうたん)文様
実が鈴なりにたくさんつくこと、瓢箪の種は100個あると言われるほど数が多いことから「家運興隆(かうんこうりゅう)」「子孫繁栄」「多産」などの意味があります。
また、特徴的なくびれた形は邪気を吸い込んで逃さないと言われ、魔除けとしてもよく使われました。瓢箪を6つ描いた「六瓢箪(むびょうたん)」は、語呂合わせで「無病息災」の縁起物とされています。
吉祥文様が入った縁起のいいグラスのプレゼント
今回ご紹介した吉祥文様が描かれた縁起の良いギフトをご紹介します。
六瓢箪ロックグラス
六瓢箪が描かれたロックグラスです。ガラスのきらめき加工により、お酒の美味しさや冷たさがより一層際立ちます。高級感ある桐箱入りなので、きちんとしたい目上の方へのプレゼントにも。
六瓢茶碗
六瓢箪が描かれた有田焼のお茶碗です。無病息災の縁起物である六瓢箪は「毎日美味しくご飯を食べて、健康で長生きできるように」という願いをこめるのにぴったり。
六瓢湯呑
こちらは同じシリーズの六瓢湯呑。お茶碗とセットで贈れば、いつもの食卓がちょっと贅沢な雰囲気に。敬老の日や長寿祝い、母の日・父の日の贈り物にもおすすめです。
さいごに
一大ブームとなった「鬼滅の刃」でキャラクターが着用している羽織にも使われている吉祥文様。特に市松模様のマスクは最近よく目にするようになりましたね。
また、よく見るとお菓子などのパッケージデザインに吉祥文様が使われているものもあります。今回ご紹介したもの以外にもたくさんの吉祥文様がありますので、身近な物の中からぜひ探してみてください。